賃上げについて思うこと

賃上げの呪文!
ここ数年、ありとあらゆる場面で「賃上げ」のフレーズがこだましています。また、現在本格化を迎えている春闘の交渉時期にはさらに賃上げの呪文が勢いを増していたるところでこだましていることでしょう。新聞でも、テレビでも、ラジオでも、ネット上でも非常に「賃上げ」がワードとして激増しましたね。「物価上昇を上回る賃上げを!」といわれる場面も定着しました。賃上げがこれだけ主張される背景には3つの要因が挙げられます。
まず1つ目は、インフレによる物価上昇です。わが国でも高度経済成長期と呼ばれる主に1955年~1973年頃にもインフレによる物価上昇は起こってきました。しかしながら、この時期の物価上昇は需要拡大型のインフレでディマンドプル型と呼ばれるもので、経済が急成長し、モノが足りない状態になり、供給不足を解消するために設備投資を劇的に拡大させていく過程で起こりました。つまり需要が供給を遥かに上回っていたことによる物価上昇でした。では、このときの国民の生活はどうだったかといえば、経済の急成長に足並みをそろえるように所得の大幅な増加が続いたため、購買力は弱まらず、むしろ消費拡大をけん引していました。
一方、2020年代に入ってから現在にいたるまでのインフレは、エネルギー価格高騰、原材料価格上昇、戦争・紛争に端を発する地政学的なリスク、国際価格の上昇・円安による輸入物価の高騰と、高度経済成長期とは様相が異なります。現在のインフレは「コストカット型」であるといわれています。そのため、高度経済成長期のように物価上昇を賃金上昇が上回るといった状況ではなく、購買力の低下により人々の生活は苦しい状況になっているというのが実情です。そのような背景から、働く人々が自分や家族の生活を防衛するためにも一層の賃上げを求めるということになるのです。
次に2つ目は、政策誘導の側面からのもので、国からの強いメッセージとして事業者に賃上げを要請しています。賃上げ税制によるインセンティブ施策や助成金についても賃上げ連動型のものがよく目につくようになりました。また、働くみなさんにとって一番身近な最低賃金の引き上げ継続も挙げられます。このように国も様々な施策を用いて企業に賃上げを促しています。賃上げを促し、実現させることで国民の生活を下支えし、国民経済を安定させようと意図しています。
最後に3つ目は少子高齢化に起因する構造的な人手不足が挙げられます。そのために企業も他との人材(財)獲得競争に負けないよう、必要人材(財)を確保しなければなりません。今や採用市場は空前の売り手優位の状況にあります。最近では、初任給が33万円⁉、37万円⁉⁉、40万円!?!?!?と一昔前からすると本当に?と思ってしまうような金額も飛び交っています。このように他社と比較して一見破格にも見える初任給の企業はまだまだ一部に留まりますが、これも人材(財)を確保するための経営戦略ともいえるでしょう。
ただし、初任給を引き上げることによって最も重要なことは、既存社員の給与とのバランスです。とくに入社2年~5年目の社員と初任給が同水準だったり、はたまた逆転してしまうことになれば、既存社員からの不満が噴出します。わが国では終身雇用を前提とした年功序列型の賃金体系を長く是としてきたため、自分より後に入った人は自分より給与が低い、年次が上がれば給与が上がるという期待が根底にあることからにほかなりません。ですがそのような不満をもつのは実は年功序列の仕組みそのものではなく、納得感だともいわれます。とくにわが国に代表されるメンバーシップ型雇用では、職務、役割定義、成果基準が曖昧で何に対して給与が支払われているのかが明確でない点が問題であるといわれます。そのため、入社時期や同じ部署などを基準とする他人との比較でしか判断できない状況を作ってしまうことになりがちです。
ですから企業が初任給を上げるにあたり、既存社員に何を伝えるかについては、賃金決定基準を明確にしたうえで言語化すべきなのです。それぞれの従事する職務による基準、役割による基準、スキルによる基準、こうした基準を軸に、なぜこの金額なのかがそれぞれの腑に落ちるように示す必要があるでしょう。働く人が自分の賃金に不満を抱くのは序列の問題ではなく、賃金決定のロジックが見えないことによる問題が大きいと捉えるべきでしょう。そのうえで現行の賃金体系や評価基準について、いまの制度で問題ないのかを見つめ直してもらうとよいでしょう。
いずれにしても、あらゆる方面から企業に対し賃上げを求めるわけですが、賃上げをするためにはもちろん原資が必要です!そして、その原資となるのは企業の収益力にほかなりません。つまり、企業の収益力が向上することによって、そこで働く人々にも賃金の増加というかたちで恩恵が及ぶという好循環となるような社会を目指そうとして政策誘導が行われます。そのうえで企業が無理なく賃上げをできる環境をいかに醸成できるかが今後を見通すうえでも重要になってくるでしょう。
今回は、賃上げをテーマに取り上げましたが、次回は「福利厚生」について取り上げてみようと思います。
この記事を書いた人

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社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(日本FP 協会認定)
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