福利厚生とは?

どのようなものが福利厚生ですか?
前回の賃上げについてのテーマで申し上げたように、近年は専ら「賃上げ」のフレーズを聞かない日はないように思います。一方、福利厚生と聞いてみなさんは何を思い浮かべるでしょうか?
まず、福利厚生とは何かについて掘り下げていきます。福利厚生とは企業が従業員およびその家族の生活の安定や向上のために提供する制度や支援の総称です。さらに実務的な観点で申し上げるなら給与以外で従業員の生活・健康・将来を支える制度というものになります。
そして福利厚生には法律で企業に実施が義務付けられた法定福利厚生と、企業が独自、任意に実施する法定外福利厚生があります。わが国の場合、法定福利厚生の比率が非常に高いといわれています。その代表的なものがみなさんご存知の社会保険です。(広義では健康保険、介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険を指します。)
働くみなさんからすると、主に法定外福利厚生に注目します。なぜなら、法定福利厚生はどの企業も法律に則り実施されているので企業間での差異は生じないことによるからです。
では、法定外福利厚生と言って、まず何をイメージされますか?一番イメージしやすいのは社員旅行(慰安旅行なんてよばれることもありました。)ですかね。ただ、この社員旅行も現在では実施企業が約3割程度の水準にまで低下しており、決して多数派とは言えなくなりました。昭和から平成初期までは社員旅行は福利厚生の定番でした。しかし、価値観の多様化で、休日は家族と過ごしたい、プライベートを重視したいという従業員の増加、同室宿泊や集団行動を敬遠する世代も増え、さらには企業も賃上げや社会保険料の負担増によって収益力の低下が重なることも影響し、社員旅行を実施するコストが捻出困難になっているともいわれます。また、近年では2020年初頭の新型コロナウイルス感染症流行がさらに減少に拍車をかけたともされています。
ただ、興味深いデータとして、帝国データバンク福岡支店が行った福利厚生に関する企業の実態調査(2025年11月20日発表)では、今後取り入れたい福利厚生で社員旅行が14.8%でトップになっています。企業が社員旅行を実施したいとするのには、日頃の労をねぎらうという側面はありますが、それ以外に社内でのコミュニケーション不足や世代間の交流不足を補いたいという意図も見え隠れしているようです。
社員旅行を実施している会社でも、昭和型の全員参加・団体行動・宿泊を伴うスタイルから、日帰りイベントの形で、自由参加としていたり、中には会社の中のチームや部署単位、プロジェクトメンバーなどの単位で行う旅行や交流イベントに会社がその費用を補助するなど柔軟な制度に切り替わってきています。
昭和型の福利厚生のトップ3は、社員旅行・社宅、社員寮・保養所でした。バブル期には多くの企業が温泉地やリゾート地に自社保養所を持っていました。昭和型の福利厚生を表現するなら、会社が生活の面倒を見てくれるようなものといったところでしょうか。余暇、住まい、食事など会社が生活の一部を支え、従業員すべてに一律の福利厚生を提供してきました。また、この時期は現在よりも会社の仲間と過ごす時間が多く、企業コミュニティを形成するための福利厚生であったといえます。そりゃあ社員寮に入って業務時間以外も生活を共にするとなれば、いかに社員間での結びつきが強いかは容易に想像できます。まさに同じ釜の飯を食うといことわざがピタリとあてはまりますね。
では、令和版の福利厚生にはどのようなものが取り入れられているのでしょうか?キーワードは、「資産形成」、「健康」、「成長」です。
まず、資産形成のキーワードに象徴される制度として挙げられるのが「企業型確定拠出年金(企業型DC)」です。特徴としては、老後不安を抱えている従業員の資産形成を支援し、かつ税制優遇措置が採られ、給与とは別の形で効率よく将来資産を増やす制度として注目されており、導入企業も右肩上がりで増え続けています。この企業型確定拠出年金は、老後資産が見える化されること、転職してもさらに転職先に同制度が導入されていればこれまで培った資産を移換したうえで、さらなる資産形成が図れることも働く人々に評価されています。
次に、健康のキーワードからは健康と生産性を結びつける健康経営型福利厚生が挙げられます。代表的なものとして、人間ドックの補助、メンタルヘルス支援、スポーツクラブやフィットネスクラブの補助があります。昭和の時代にもゴルフクラブ、スポーツクラブ、リゾートクラブなどの法人会員権を会社が所有し、従業員が割安に、または無料で利用できる制度が存在しましたが、この時代のものは余暇を充実させる要素や接待的要素を持ったレジャー型福利厚生でした。現在のスポーツクラブやフィットネスクラブの補助は、個人が選択したスポーツジムの使用料の一部を会社が補助するような、健康増進を目的としたものでレジャー型福利厚生とは趣きが異なります。
3つ目のキーワードの「成長」についてですが、象徴的なのが自己啓発・リスキニング支援で、代表的なものに資格取得補助、研修費補助が挙げられます。たとえば、受験料の補助や受講費用の補助のほかに、資格取得奨励金支給のようなもので、従業員のキャリア形成を支援する福利厚生といえます。長時間労働が当たり前だった昭和の時代(週6勤務は当たり前で、労基法上も週48時間が法定労働時間でした。)から平成に入り段階的に労働時間の短縮が実施され、現行の週40時間が法定労働時間となったのは平成9年(1997年)のことです。働く時間は短縮されてきたものの、公的年金の支給開始年齢の引き上げを背景とした、定年年齢引上げや高齢者雇用確保措置の実施によってリタイヤメントの時期も後ずれしてきています。つまり長い年月働く時代に変化してきたのも事実です。総務省による労働力調査でも、2024年の就業率で、70~74歳の就業率は35.1%、75歳以上で12.0%、つまり70~74歳では約3人に1人が、75歳以上では約8人に1人が働いている状況です。また、この高齢者の就業率は20年以上連続で上昇しており、過去最高を更新しています。長い職業生活において、能力を発揮し続けるためには、働く人各々の成長・スキルアップは欠かせません。まさに時代の変化とともに徐々に注目を浴びるようになった福利厚生といえるでしょう。
このように福利厚生も過去から現在へと時代をたどっていくと、昭和の福利厚生は「生活支援」、令和の福利厚生は「人生支援」と福利厚生も姿形を変えてきています。そして3つのキーワードとしてご紹介しました「資産形成」、「健康」、「成長」のそれぞれに共通するのは安心です。資産形成は将来の安心を、健康は心身の安心を、成長はキャリアの安心をもたらします。
令和の福利厚生は「資産形成」、「健康」、「成長」の3つを支える制度へ変化しています。みなさんの会社にはどのような福利厚生がありますか?自分が働く会社を選ぶ際に賃金はもちろん重要ですが、福利厚生も同じくらい重要です。賃金が今の生活を支えるものであるのに対し、福利厚生は将来や生活の安心を支える制度ということができるでしょう。
現在は、企業においても賃上げと福利厚生を組み合わせて設計する考え方が広がっています。これを総報酬(Total Rewards)と呼びます。
今回は福利厚生をテーマにしました。この機会に、ぜひ福利厚生についても関心を向けていただければと思います。
この記事を書いた人

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社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(日本FP 協会認定)
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